Photo:Yoshihiro Ozaki(daruma)
前回記事【前編】では豊橋鉄道さんの本社にお邪魔しましたが、
【後編】では市電の運転士さんたちにインタビューをさせていただきました!
運転士さんになるまでの道のりや、路線のお気に入りスポットなど、ここだけの話がいっぱいです。ではでは、早速行ってみましょう〜!
市電の停留場は三角屋根がかわいい、レトロで雰囲気があるプラットフォーム。一般の自動車が走る道路の真ん中にあるのでちょっぴり控えめ。「競輪場前」停留場はクックマートを運営するデライト本社の最寄り停留場でもあります。このすぐ近くに、運転士さんたちが勤務する市内線営業所があるんですよ。
クックマガジン編集部:
本日はよろしくお願いします!運転士さんの制服、カッコいいですね。クックマちゃんにも帽子を貸していただきありがとうございます。
運転士さん:
クックマちゃんは帽子もぴったり似合いますね(笑)
クックマガジン編集部:
私は車の免許しか持っていないのですが、電車の運転士さんになるのって難しそうですね。電車にも教習所みたいなところがあるんですか?
運転士さん:
はい、年に2回、国土交通省の学科試験があります。「運転法規」「電車の構造理論」「運転理論」の3科目を勉強して、社内の選考試験を通過したら本試験を受けることができる仕組みになっているんですよ。この学科試験が、なかなかの強敵。数学的なことから法律まで、学ぶことが本当に幅広いんです。電車が止まるまでの距離の計算では物理の知識が必要だったりと、みんな苦労していますね。さらに市内線の場合は、車と同じ一般道を運転するので「乙種免許」と言って道路交通法も勉強する必要があるんですよ。
これに合格すると2か月後に実技試験、さらにクリアすると、教官がつき仮免として運転ができるようになり、一人で運転できるようになるまでは、だいたい半年くらいかかるんですよ。
クックマガジン編集部:
なかなか大変そうですね。いざ試験に合格しても、市電は車と近い距離を走りますし、実際の運転ってすごく難しそうですよね。日本一急なカーブ※のところとか、ヒヤヒヤしそうですね…
※井原停留場は、交差点西側から運動公園前方面への分岐が急カーブを描いている。このカーブの半径は11mで、日本の鉄道線路の中で最も急なカーブとされている。
運転士さん:
「日本一急なカーブ」はマニアに有名で、写真を撮っていらっしゃる方がよくいますね。あそこを曲がるにはコツがあって、時速10キロ以下に徐行して入っていく必要があるんです。
やっぱり市電の運転は、一般の鉄道線とは違った独特の難しさがあって、特に事故には気をつけていますね。それから、紅葉の季節が終わる頃も、緊張するシーズンなんです。線路に落ち葉がたくさん落ちているんですが、落ち葉は油分を含んでいるので、雨が降ると、車輪が空転して滑りやすくなってしまうんです。だから僕たちは、いつも細心の注意を払って運転しています。空転を防ぐため、細かな砂を撒いたりもしているんですよ。そうすることで、グンと滑りにくくなるんです。いわゆる、落ち葉対策ですね。
クックマガジン編集部:
豊橋の市電は“おでんしゃ※”や“花電車”などのイベント電車でも有名ですよね。これらの電車を運行されるとき、特に気をつけているポイントはありますか?
※2007年より運行開始した、電車内でおでんを提供するイベント電車。11月から翌年の2月にかけて、駅前〜運動公園前間を1往復する。
運転士さん:
運転のポイントとは違うんですが、“おでんしゃ”を走らせるときは、運転士も事前にビールサーバーで上手にビールを注ぐ練習をするんですよ。折り返しの運動公園停留場に着いたときに休憩タイムがあって、その際は僕たちもビールを注いだりするので。”おでんしゃ”は日本中から噂を聞きつけてやってきたファンの方がいたり、今はこのご時世なので難しいですが、スペイン、フランス、ブラジルなど世界各国の方々も観光で来てくれたこともあるんですよ。
クックマガジン編集部:
イベント電車は、まさに豊橋の市電らしさの象徴ですよね。他に今まで開催された、人気の企画はありますか?
運転士さん:
「車庫めぐりツアー」は、とっても好評でしたよ。バスで豊橋鉄道グループ4か所の車庫を周遊し、車庫見学、路面電車撮影会、洗車機体験などマニアックな内容なのですが、中には県外のお客さんもいらっしゃいました。車庫に一列ずらっと電車が並ぶ光景はとってもレアなので、みなさん感動してくださいましたね。ツアーとは別に、ふるさと納税で路面電車の運転体験会を開催したことがあったのですが、この企画も人気でしたよ。遠方からですと、福島からお子様連れで来てくださるご家族もいらっしゃって。貸し切りで電車に乗車できるので、その点も喜んでいただけましたよ。
クックマガジン編集部:
それはマニアにはたまらない企画でしたね。
ちなみに、運転士さんたちのあいだで、“この電車はテンションがあがる!”という、人気の車両はありますか?
運転士さん:
クックマ号にもなっている、780型は人気ですね。エアーサスペンションがついていて、運転もしやすいんです。“この人はこの電車”という担当制度はなくて、運転士がどの電車を担当するかは、当日営業所に行って初めて知るんです。 “今日はクックマ号だ!”なんて、毎日くじ引きをしているような感覚です。
クックマガジン編集部:
豊鉄さんの車両って、独特な味わいがありますよね。ガタンゴトンと走る音や、座るとほんわり温かいシートなんかも市電ならではの魅力だなって感じます。長年運転されている中で、好きな停留場や風景はありますか?
運転士さん:
僕は駅前大通が良いですね。センターポールが立っていて事故の心配もないので、好きというよりも、安心感が強いかもしれません。
他のメンバーと話していて人気なスポットはやっぱり、東田坂上から下る石畳の風景ですね。夕方に坂を下ると夕日が映る瞬間があって、それがとっても綺麗なんです。他には、井原の運動公園の通りが好きって言っていた人もいましたよ。寒い冬の日に天気が良いと、新東名の高速までバーッと見渡せるんです。これは、毎日運転しているからこそ見える風景だと思います。
運転士さん:
また、「豊橋市公会堂」前は豊橋を象徴する風景の一つですね。公会堂は戦前からある建物で、空襲の戦火を逃れ、大正デモクラシーの機運やロマネスク様式を残す貴重な建築なんです。後ろには豊橋市役所も見えます。市役所周辺は吉田城の城跡が「豊橋公園」として整備されていて、市民の憩いの場所になっています。
クックマガジン編集部:
運転士さんだからこそ見られる景色、出会える風景があるんですね。
運転士さん:
そうですね。毎日乗っているからこそ、気づくこともあるのかも知れません。風景だけでなくお客さんも同じで、乗車してくださる方の日常に触れられるところも、この仕事の醍醐味ですね。毎日乗ってくださる方と顔馴染みになったり、いかにもキャラの濃い、“名物お客さん”みたいな方との会話を楽しんだりしています(笑)
クックマガジン編集部:
私たちスーパーも日常に密接したサービスを提供しているので、毎日来てくださる方も多いですし、その方々との交流も楽しみだったりします。市電とスーパー、やっぱり似ているところが多いですね。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
2回にわたる豊橋の市電特集、楽しんでいただけましたか?少しでも市電に興味を持っていただくきっかけになったら嬉しいです。
街でクックマ号を見かけることがあったら、ぜひ写真を撮ってシェアしてくださいね。
「クックマ号に乗ったよ!」という声も、お待ちしています。
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