COOK MAGAZINE

「フカヒレ」「シンシン」「インサイド」?? 焼肉屋でも珍しい、牛の希少部位をスーパーで買える秘密と、東三河のブランド牛「田原牛」に迫る。

2019.10.21
COOK MAGAZINE
INTERVIEW:
田原牛肥育倶楽部のみなさん

一見、ありふれたスーパーマーケットのお肉売り場。鮮やかなピンクが眩しいですね。食欲をそそりますね。お肉、食べたくなりますね。さて今夜のメニューはどうしようかな……とぼんやり眺めていると、何やら見慣れないものが置いてあります。

ふかひれはロースの中でもとりわけ肉汁が多い部位。なかなかお目にかかれない希少部位です。

「ふかひれ?」

シンシンはモモにある「しんたま」と呼ばれる部位の中心部。舌触りが心地よく上品な味わい。

「シンシン??」

インサイドはハラミ近くの腹横筋。肉の旨味が強い。ざっくりした歯ごたえが楽しい。

「インサイド???」

他にも聞いたことがない名前がずらり。

焼肉屋ですらなかなか見かけないお肉が、なぜスーパーに置いてあるのだろう……。その秘密は、ステッカーに共通する「田原牛」にあるようです。


東三河のブランド牛「田原牛」の産地へ

そんなわけでやってきました。愛知県田原市。渥美半島の大部分を占めるこの町は、北は三河湾、南は沖合に黒潮が流れる太平洋に面した風光明媚な温暖地域。この恵まれた気候を活かした農業が盛んで、農業産出額は常に全国トップクラスを誇ります(平成26年から29年までは4年連続1位!)。

畜産も盛んで、肉用牛でいえば愛知県内のおよそ30%がこの田原市内で飼育されています。その中でも、徐々にその存在感を高めているブランド牛「田原牛」。田原牛は、全国各地のブランド牛の中ではまだ若手の存在ですが、その品質の高さから注目を集めています。

田原牛肥育倶楽部の会員は近距離で牧場を運営しています。少し歩けばいくつもの看板が見つかります。

田原牛の特徴は、そのお肉の美味しさや独自の飼育方法もちろんですが、肥育農家さんたちが所属する「田原牛肥育倶楽部」の連携体制にも秘密があります。何しろ一体感がすごい。お揃いのスタジャンで恰好よく決めています。

会員のみなさん、それぞれが牧場を持つ代表者です。
見た目にこだわった後姿。某球団を彷彿させる力強いデザインが好評です。

成功も失敗も、みんなで共有して改善し合っているみなさん。実は、肥育農家さん同士がこれほど近い距離で一緒に取り組んでいるのは全国でも珍しいとのこと。さっそく、そのあたりの事情も倶楽部の四代目代表である、白井牧場の白井さんにお話をお聞きしました。

いいお肉は、いいチームワークから生まれる。

白井牧場を運営する白井さん。前会長からのご指名で会長に就任。

──白井さん、まず田原牛はどんな牛なのか教えてください

田原牛は交雑種で、倶楽部で決めた餌と飼育方法で育てた牛をそう呼びます。今は10軒の農家で約2,000頭を肥育していて、平成30年の出荷頭数は約900頭。少しずつ増えていますね。

交雑種は乳牛であるホルスタインと和牛のハーフ。ところどころに見える白い部分が乳牛の名残です

──やっぱり餌が特別なのでしょうか?

白井さん:餌は重要ですよ。稲わらは主に地元田原で収穫されたものを使ってます。それに配合飼料は非遺伝子組み換えのとうもろこしと大豆粕を主に原料にして、それを牛の成長に合わせて肥育前期・中期・後期とも統一された配合を給与しています。

田原牛に与える餌は、すべて分別管理をして、安全・安心なものだけを原料として使用しています。

──餌が同じだと、お肉の品質も同じように育つんですか?

白井さんそれが全然違う。同じ餌、同じような育て方をしても、出荷して肉の等級を見ると同じにならない。格付け表で2等級から5等級まであってね。5が最高。サシの入り方で分けられるんだけど、2と4では売値もずいぶん差が出る。サシの入れ方は農家の腕の見せどころ。十分に食べさせないとサシが入らないけど、食べすぎると調子が悪くなったりするし。僕らはみんな元々酪農家だから、肥育に慣れるまで大変だったよ。

成長や体調に合わせて食べさせる量を調整。絶妙にサシが入る太らせ方は、長年の経験と勘のなせる技です。

──酪農と肥育ってそんなに違うんですか?

白井さん:肥育(食肉用の牛の生産)と比べると、実は圧倒的に酪農(乳や乳製品を生産)の仕事の方が大変。朝晩乳搾って、餌やって、種付けして、分娩があり、牛乳の品質管理まで行う。休みも思うように取れない。ただ、毎日牛乳を出荷できるから、1ヶ月の収入がある程度把握できる。それに牛乳は基準を満たしていれば決まった値段で農協が買ってくれるから、売上が安定しやすい。

でも肥育は出荷まで2年かかる。僕は20年ぐらい前に親父がやっていた酪農を辞めて肥育をすることにしたんだけど、ゼロからのスタートだったから、最初の出荷まで収入ゼロ。あっという間に運転資金が底をついて大変だった(笑)。牛舎とかひとりで改造したからね。肥育は、無事に出荷まで育っても等級次第で売値が違う。結果が良かったときは達成感があるし、逆に成績が悪かったときのショックも大きいよ。でもそれが醍醐味かな(笑)。

これから出荷される牛。2年間の飼育の成果が試されます。

──田原牛は交雑種では異例の4等級比率と聞きました。会員のみなさんは元々酪農家だったのに、どうしてここまでレベルが上がったんでしょうか?

白井さん:今は出荷全体の4割ぐらいが4等級になっているんじゃないかな。自慢じゃないけど、日本でもトップクラスだと思うよ。5等級は、うちでもときどき出るけれど、そこは狙ってない。普通の人が食べられて、十分に美味しいお肉がいい。それに4等級を超えたら、クックマートさんが丸ごと買ってくれるからね。10年ちょっと前、取引が始まってからずっとそう。だから僕らも安心してそこを目指せる。

白井さん:どうしたら安定して4等級を育てられるか、会員同士で考えてる。勉強会したり、お互いの枝肉を比較して意見交換したりね。露骨にみんな言うよ。お前(の牛)じゃ俺に勝てんとか、俺の上に行ったら許さんぞ、とかも(笑)。そんだけ腹割ってるから、信頼関係もある。何年かに一度はみんなで旅行に行ったりもするよ。

──肥育農家同士でそういうチームワークは珍しいと聞きました。なぜでしょうか?

白井さん:やっぱり、他の人より上にいきたいんじゃないの? あいつが一頭80万で売ってるけど俺は90万だぞとか。等級っていう分かりやすく成績が出るし。同じブランド牛の農家でも、うちみたいに同じ餌を使ってるなんて聞いたことない。

白井さん:手塩をかけて育てた牛は、自分の作品みたいなもんだから。職人気質の人も多いと思う。各地のブランド牛をやってる人は特に多いんじゃないかな。肥育農家は一匹狼だよ。

──でも、田原牛肥育倶楽部では協力し合ってます

白井さん:僕らはみんな元々酪農家だからね。今も会員の半分は肥育と酪農を両方やってるよ。酪農家は競い合うことはなくて、むしろ個人では動けない。地域で協力し合わないとやっていけないの。その意識があるから、自然と一緒にやっていける。

白井さん:同じ餌を使って、管理方法も合わせてる。だから、倶楽部の10軒の農家は、大きなひとつの牧場のようなイメージがある。どの農家の田原牛を食べても味のばらつきが少なくて、安定しておいしい牛肉を届けられる。

田原牛のラベルが貼ってあったら、安心して食べてほしい。どれも間違いないからね。


白井さんのお話にもありましたが、クックマートでは4等級を中心に、田原牛を一頭丸ごと買い取っています。いわゆるセット買いと言われる仕入れで、クックマートでは田原牛に限らず、飛騨牛も輸入牛もぜんぶ同様の方法で仕入れています。これは全国でも極めて珍しいやり方。知識とスキルがないと肉を無駄にしてしまいます。

でも、クックマートでは長年の試行錯誤から、希少部位を探し出すノウハウが蓄積。えんぴつ、はねした、シンシン、くり、千本などなど……。滅多に食べられないお肉が並ぶのです。

ちなみに希少部位は争奪戦。特に一頭からほんの数百グラムしか取れないシャトーブリアンになると、店頭に並んだそばから売り切れることも日常茶飯事だとか。今晩はご馳走にしようかしらとお悩みのみなさん、まずはクックマートのお肉売り場にいくといいかもしれませんよ。

text:Shingo Kato(LANCH)
Photo:Yoshihiro Ozaki(daruma)

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