COOK MAGAZINE

47年の農業人生の中で、今が一番楽しい。3代続く農園の現在と未来。

2020.01.10
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INTERVIEW:ホホ農園

全国でも屈指の農業地帯である愛知県田原市。ここに三代続く農園があります。名前はホホ農園。運営する林さんご一家の名字をもじって名付けられたこの農園は、代表である林恭芳(やすよし)さんを中心に、家族で農業を営む専業農家です。

家業として数世代にわたって農業を営む方は少なくない地域ですが、このホホ農園はここ数年で収穫される野菜が大きく変わったそうです。例えばキャベツひとつとっても、サイズが大きく、形美しく、味もよくなったとか。

何十年と積み上げられ、継承されてきたものが変わるとき、そこにはどんなキッカケがあったのでしょうか? ……というわけでやってきましたホホ農園!

林恭芳さんと、

ホホ農園の次代を担う、長男の訓正(のりまさ)さんにお話を聞きました。


47年の農業人生の中で、今が一番楽しい。

──ちょうどキャベツやブロッコリーの収穫時期ということですが、ホホ農園ではどのような野菜を扱っているのでしょうか。

恭芳さん
キャベツ、ブロッコリー、白ネギ、ズッキーニです。あとお米と、夏はパッションフルーツも作っていますよ。うちは特にブロッコリーとキャベツに特化していて、収穫の大部分はこの二つです。ぜひキャベツを見てください。

ホホ農園を支える恭芳さんの奥さま(右)と次女(左)。美味しそうなキャベツを持ってきてくれました。

──ずっしりと重さもありますね。どんなこだわりを持って作られているんですか?

恭芳さん
土ですね。土がすべてだと思います。うちでは堆肥用のスペースを確保していて、そこでオリジナルの堆肥を作っています。土から十分に栄養を得られるように、たっぷりの株間をあけて種を植える。おそらく、一般的な畑とは倍以上の広さを取っているんじゃないかな。キャベツとキャベツの間にもう一個入るぐらいだからね。生産量はそりゃ落ちる。でも、大きく育つ。ほら外葉が大きいでしょう?

外葉が大きくならないとキャベツは大きく育たない。それにいい形ですよね。野菜って、容姿端麗なものほど美味しかったりするの。形のいいものは味もいい。芸術品だと思ってます。

──このやり方で、代々ずっとやられていたんですか?

恭芳さん
いや、今のようなやり方になったのは5年ぐらい前からかな。クックマートさんとの取引が始まってからだね。それまではもっと量を確保しなければいけなかった。もちろん、味にもこだわっていたけど、どうしても量を優先して生産する必要があった。だからできるだけ種同士も狭く植えてた。でも、それが当たり前だったんだよね。私は今年で65。農業をやって47年になります。その間のほとんどが、量を確保する農業だった。それがクックマートさんとの出会いでガラッと変わったわけだから、すごいよね。

──クックマートとはどんな出会いだったんですか?

恭芳さん
息子の嫁がクックマートで買い物するときに見つけてきてくれたの。クックマートのレジ横に貼られた「産直農家さん募集!」っていうチラシを。クックマートを選んだ理由は、売り場に本当にいい野菜が並んでいたから。その素敵な売場でホホ農園の野菜も置いてほしい、そしてそのクオリティを理解するお客さまに召し上がっていただきたいと思いました。始まったらどんどん取引が大きくなって、今ではうちの畑で出来た野菜の9割強はクックマートさんに出荷されますよ。ほとんど全部です(笑)。あとは地元の小学校の給食用に出すぐらいだね。

白ネギも旬。太い茎としっかりした根が見て分かります。かじるとほんのり甘いとか。

──それほど主要な取引先になったんですね。クックマートとのお付き合いは何が他と違ったんでしょうか?

恭芳さん
いいものを、いい値段でちゃんと買ってくれる。これが何よりありがたいことです。それが分かっているから、私らはとにかく食べておいしい野菜づくりに専念できるようになりました。それはこれまでと比べると大きな転換で、例えば収穫量を減らしてでも形が良く味のいいものを作るといった生産方法の変化だったり、キャベツは鮮度が味に直結するのでクックマートさんへの納品は収穫から24時間以内するという約束だったりに繋がっています。求められるものが変わったので、働き方もずいぶん変わったんですよ。

恭芳さん
なにより、働きがいというか、仕事が楽しくなったよね。お店の売り場にいくと、お客さんが野菜の裏まで見て買っていくのがわかるんです。こりゃきっちり見てるなと。いいもの作らなきゃダメだって背筋が伸びるし、作り甲斐が出ますよね。とにかくいいものを作ればいい、味で勝負できるっていうのは作り手としての喜びです。

東京で気づいた父の野菜の味。 そして未来に向けて担う自分の役割。

恭芳さんは、お話の中で「おいしい野菜をつくるだけ」ということを何度も言っていました。当たり前に聞こえる言葉ですが、恭芳さんにとっては、そこに集中できる、という環境の変化が大きかったのかもしれません。

息子の訓正さんは、そういう父の姿を見てきて思うことがあったようです。

──訓正さんは3代続く農家の長男に生まれたわけですが、やっぱり継ぐことは昔から考えられていたんですか?

訓正さん
まったくなかったですね。若い頃は特にそうで、20代の前半には実家を飛び出して上京しました。ビッグになってやる! という若気の至りというか夢があって、役者で食っていこうとしてたんです。プロダクションにも所属して。結構大手の事務所ですよ。まったく鳴かず飛ばずでしたけど(笑)。

それからスターバックスでアルバイトするうちに面白くなって、社員として働くようになり、最終的には店長になりました。そのあとはベンチャー企業で営業として飛び回ったり……とにかく農業とはずいぶん離れた暮らしをしてました。

──それでも、今年(2019)からホホ農園に関わるようになったんですよね。どんな心境の変化があったんですか?

訓正さん
最初のきっかけは、東京で暮らしていたときの仕送りだったんです。お金もなかったし、キャベツとかブロッコリーとか、父の畑で獲れた野菜を段ボールに詰めて送ってもらっていて。……今思えばありがたい話なんですけど、当時の僕には食べ慣れたいつもの野菜だったし、別になんとも思わないじゃないですか。でも、向こうの友達、それもかなりグルメの彼が「この野菜、めちゃくちゃうまい!」ってベタ褒めしてくれたんです。え? そんなに美味しいの? って僕の方が驚いちゃって。今ならその味を出すために、父がどれだけ頑張っているのか十分に分かります。けれど当時は気づけなかった。他人に言われてはじめてその価値に目を向けて、それから少しずつ父が作る野菜に興味を持つようになりました。

それと、やっぱり子どもが生まれたのが大きかったと思います。子どもたちにはできるだけ良いもの、おいしいものを食べて欲しいし、そのためには作ることを学ばないといけないって考えるようになったんです。そうやって徐々に自分が農業に近づいていったとき、クックマートさんと取引がはじまり、ホホ農園の未来に可能性を感じるようになったんです。

それまでは両親の働き方を見て悪循環の中にいるように感じていたんです。働いても働いても、全然ラクにならなかったから。今はいい野菜を作ることにまっすぐだし、何よりイキイキしています。流れが変わったタイミングで、僕が就農するのは自然なことだったのかもしれません。

──訓正さんから見て、クックマートはどんな印象ですか?

みなさんすごく楽しそうに働かれていますよね。これは普段、いちお客として使っていても、お取引させていただいても感じることです。納品にいくと担当の方から「お客さんとホホ農園さんの野菜でこんな会話が生まれたよ!」とか「昨日はブロッコリーがよく売れたよ!」なんて教えていただけたりして、単なるいち業者ではない関係がとても心地よいです。

それにクックマートさんはチーフの方一人ひとりに裁量権があるじゃないですか。その方と相談しながら、一緒になってうちの野菜をアピールできたりできる。それは大きな安心感にもつながっていますし、何より面白いですよね。僕らもワクワクしながら取引させていただいています。

──近い将来、ホホ農園を担う訓正さんがぜひやってみたいこと、目指していく農家の姿があれば教えてください

僕はまだ、生産のプロではありません。父が積み上げてきたことを、少しずつ学び、自分のものにしていくことがこれからの課題になります。それを身につけつつ、ちゃんとおいしい野菜をみんなに伝えていくことが僕の役割なのかなと。

特に子どもたちには、野菜のストーリーを届けたいですね。おいしい野菜ができるまでとか、作り手の顔を伝えていきたい。なんなら一緒に農作業から体験してほしいし、それをお店で販売するのも面白そうじゃないですか?

他にも野菜の食べ比べとか、スタンプラリーとかも興味ありますね。子どもが楽しみながら野菜を食べてほしい。クックマートさんと一緒にできたら最高です(笑)。クックマートさんとは、単なる仕入れ先と仕入れ元という関係性を超えた、互いに成長できるパートナーになっていけたら……なっていきたい、と個人的には願っています。

ホホ農園の全員とクックマで集合写真。みなさん素敵な笑顔です。

お二人のお話を聞くかたわらで、ホホ農園のみなさんが「どうこのキャベツ!」とばかりにもぎたてのキャベツをアピール。

クックマートに並ぶホホ農園さんのキャベツやブロッコリーは、この人たちの手から作られているんだなぁと思うと感慨深くなる、そんな瞬間でした。

※ホホ農園のキャベツは2020年1月現在、東脇店、飯村店、国府店、諏訪店で取り扱い

Photo:Mizukami Akihito(I’M HERE)

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